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「御手杵」復元に思う 歴史を変えた新兵器「槍」のこと

time 2015/12/18

「御手杵」復元に思う 歴史を変えた新兵器「槍」のこと

 失われていた天下三名槍のひとつ「御手杵」が復元されました。
 「日本号」「蜻蛉切」と並び天下三名槍とされましたが戦災で焼失。
 槍を作らせた結城家の子孫である高島氏の尽力で復元となりました。

 天下三名槍はいずれも室町時代に製作されたものです。
 天下五剣も室町時代に製作されたもの。
 戦国時代は室町時代に含まれるので、室町が最盛期なのは納得です。

 槍といえば古くは石器時代より製造されたきた武具です。
 ところが、日本で槍に注目が集まるのは戦国時代まで待たねばなりません。
 古くて新しい兵器、槍の登場は歴史を変えました。
 そんな槍の歴史を紹介します。

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古代から現代まで使われる優秀兵器「槍」

 尖らせた黒曜石を木の枝の先端に着けた武器。
 それをマンモスに向かって投げつける絵を見たことがあるでしょう。

 槍は石器時代から作られてきた手斧と並ぶ「最古の武器」のひとつです。
 そして、現在でも「銃剣」という形で「槍」は標準武装に含まれています。
 実は、現在の小銃のほとんどは、銃剣を装着可能となっているのです。

 ちなみに、イギリス軍は2001年以降で4度の銃剣突撃を敢行しています。
 現代でも「槍」は実戦で採用される攻撃手段のひとつだということです。

最古の武器のひとつ「槍」はなぜ廃れたか?

 しかし、日本においては脈々と「槍」が使われてきたわけではありません。
 日本でも当然、古代から槍は存在し、狩猟や戦闘に使用されてきました。
 ところが、古代において重要なのは武器の形態よりもその素材です。

 弥生時代以降に中国から青銅器や鉄器が道具の形をして流入してきます。
 日本に流入する武器は矛や戟の形をしていました。
 思えば、三国志の武将達は槍ではなく矛や戟、薙刀を使っています。

 新素材に移行する中で槍は主役から脇役へと移っていったのでした。
 平安時代や鎌倉時代の戦闘は、武将同士の馬上戦が行われていました。
 斬ったり引っ掛けたりするのに向かない槍は脇役時代が続きます。

織田信長を天下人にした「槍」という新兵器

 「槍」に注目が再び集まるのは戦国時代に入ってからです。
 尾張の織田信長は天下人を目指しますが、尾張は弱兵で有名でした。
 肥沃な濃尾平野の農民兵が、他国の兵より弱いのは当然のことです。

 そこで、単純な「刺突」に特化した槍は訓練いらずの良い武器でした。
 しかも、柄を長くすれば敵との距離が空き、恐怖心を弱めてくれます。
 他国より遥かに長い柄の槍を持たせ、敵の届かないところから攻撃させる。
 この戦術により、尾張兵は数々の強敵を撃破していくのです。

 ちなみに、紀元前4世紀のマケドニアも同じ戦法でギリシャを撃破しました。
 当時のマケドニアはインドまで征服したアレキサンダーの時代です。
 「長槍」を使ったマケドニア式ファランクスで東征を成功させたのです。

 信長がアレキサンダーの戦術を知っていたとは思えません。
 しかし、1800年を経て遥か極東の地で、似た戦術に辿りついたわけです。
 戦国時代の「槍」を新兵器というのは世界的には間違いではあります。

日本に「神槍」がないのは中国のせい?

 日本には天叢雲剣(草薙剣)や七枝刀などの神話に纏わる剣があります。
 しかし、「神槍」に該当するものはありません。
 「国産み」に登場する天沼矛は「矛」なので槍とは少し違います。

 世界的には神話に槍を携えた神が多々登場し、伝説も多く残ります。
 北欧神話の主神オーディンのグングニル。
 キリストの血を浴び聖遺物とされているロンギヌスの槍。
 ケルト神話のクー・フー・リンが用いたゲイ・ボルグなどが有名です。

 それなら日本の神話に槍が登場しても良さそうなもの。
 それがないのは、槍が進化しなかった中国の影響を受けたからでしょう。
 ところが、中国では「槍」は別の意味で現在でも進歩しています。

「銃」として発展した中国の「槍」

 1000年頃、棒の先端に火薬を仕込んで爆発させる武器が開発されました。
 「火槍」と呼ばれ、その後は火薬兵器として進化していきます。
 そして中国で「槍」は「銃」の意味で使われる言葉になりました。

 この火薬兵器は中国を征服したモンゴルからイスラムへと波及します。
 そして、気候的に火薬生成に向かない欧州は滅亡の危機に瀕するのです。
 こちらの「槍」は「歴史を変えた新兵器」として相応しいです。

 中国で開発された火薬は軍事機密となり門外不出となりました。
 また、火薬兵器を装備した元軍を日本は水際で撃退してしまいます。
 そのために、日本に火薬兵器としての「槍」は伝わりませんでした。

 勝利した日本に火薬は伝わらず、戦国時代まで弓と刀槍の時代でした。
 敗北した欧州には火薬が伝わり、鉄砲を開発して後に世界を席巻する。
 歴史の巡り合わせというのは、おもしろいものです。

 世が世なら、日本三名槍の先端には火薬が仕込まれていたかも知れません。

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