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デザイン界の常識は世間の非常識?五輪エンブレム取下げに見るパクリの境界線

time 2015/09/02

デザイン界の常識は世間の非常識?五輪エンブレム取下げに見るパクリの境界線

 7月の発表から「パクリ疑惑」が炎上し続けた五輪エンブレム問題。ついに五輪組織委員会がエンブレム取下げを決定し、騒動はひと段落を迎えました。新たなエンブレムの公募を行うことも発表されました。エンブレムをデザインした佐野研二郎氏は事務所のホームページで「エンブレムにつきまして」というタイトルで経緯と謝罪を公開しました。

 組織委員会も佐野氏も一貫しているのは「デザインに問題はない」ということでした。その上で「国民の理解が得られない」というのが取下げの理由です。

 随所に見られる「デザインの専門家なら理解できるが一般国民の理解は得られない」というスタンス。しかしデザインの類似性も含めて善し悪しを判断するのは一般国民なのでは?デザイン界の常識は世間の非常識なのか?

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佐野氏は「行きすぎたバッシングから家族を守るため」に取下げ

 佐野氏はホームページに謝罪を載せました。謝罪内容は「エンブレム以外の不手際」と「エンブレム取下げ」により迷惑を掛けたことで、「エンブレムの類似性」や「オリンピック展開例の写真流用」についての謝罪ではありませんでした。エンブレムについては徹頭徹尾、オリジナルであり問題ことを訴えており、類似性を認めての取下げではありません。

 それよりも文面の多くを費やしたのはメディアの報道、ネット上での誹謗中傷、晒し、なりすましなどの被害でした。そして、被害が家族やスタッフに及ぶことを懸念して「人間として耐えられない限界状況」に至ったとのことです。

 三行にまとめればこんな感じです。
 「当方に落ち度はない」
 「私は被害者」
 「嫌がらせに屈するのは不本意だが身内を守るため仕方ない」

佐野氏の謝罪文から感じる「デザイン界の常識」の違和感

 個人的には、メディアの取材攻勢や裏付けなき報道被害はもっとクローズアップされるべきだし、ネット上の誹謗中傷ややり過ぎた晒し行為などは法的措置を強化しても良いくらいだと思っています。その点は佐野氏の言い分はもっともで、むしろもっと広く世間に知らしめて頂きたいと思っています。

 ただ、デザイン関連の話になると素人目には違和感がある部分があります。

 佐野氏は「エンブレム以外のデザイン」について「不手際」があり改めて謝罪しています。これはトートバッグが第三者のデザインをトレースしていたことを認めたことを指していると思われます。そして「一切の責任は自分にあります」としています。

 世間の常識では、不手際がみつかれば類似調査が行われ他にも同様の不手際がないかを洗い出して、再発防止に努めるものです。この類似調査、再発防止を組み合わせないと被害を与えた方々(顧客など)が納得しないからです。

 しかし、この騒動で類似調査が行われたという報告はされませんし、その後も類似の疑惑はネット上で次々に沸き上がる事態となりました。再発防止策も明確にされませんでしたので現在も佐野氏の事務所ではトレースが行われているという疑惑を払拭できません。佐野氏に責任があることは当然ですが、どう責任を取るのかも明確になっていません。

 著作権侵害は親告罪ですし、ネット上の画像は著作権が発生する条件を満たしているかも議論があります。現時点で佐野氏は法を犯したわけではありません。しかし、常識的な対応すら取らないことには違和感があります。彼の事務所がそういう体質なのか?数多のデザイナーから強い批判や指摘がないということは、デザイン界がそういう世界だということでしょう。

五輪組織委員会の目線は「世間」寄り?

 五輪組織委員会は取下げを発表した会見で「エンブレムに問題はない」ことを説明しました。また、オリンピック展開例の写真が流用されていた問題では「内部資料を権利者の了解を得ずに公開した」とし、不注意で起きた問題だと説明しました。

 その上で「専門家の間では十分わかり合えるんだけど、一般の国民にはわかりにくいですね」という話があったとしています。五輪組織委員会としては模倣かどうかは判断できないから専門家の判断に従うが、国民の理解は得難いということで取下げの決定に至りました。

 五輪組織委員会はデザイン界の人達ではないので専門家に従うのは当然です。これは五輪開催には本当に様々なことが付随してくるので、他の事案なども含めて専門家の意見を聞きながら進めるのは当然のことです。以前、五輪に関わる食材の「国際認証」を記事にしましたが、このような分野にまで五輪は影響してくるわけです。

五輪組織委員会の「問題ない」説明に感じる違和感

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 五輪組織委員会の説明にも違和感があります。オリンピック展開例の写真が流用されていた問題で、コンペに提出する資料は「内部資料」になるのでしょうか?また、内部資料なら著作物の流用は許されるのでしょうか?

 「広く一般に流布しない」ものが「内部資料」という定義ならわかります。しかし世間では会社内やチーム内という括りに対して「内部」という表現をするものです。公募に対しての応募資料が「内部資料」とは、このような理屈は通るのでしょうか。

 もしこれが通るのであれば、審査する側と審査される側が「内部」と認識し合うほど近しい関係だったことが疑われます。これはこれで当初から疑惑としてあった「出来レース」の話に発展してしまいます。

 また、内部資料であっても著作物の流用は極力避けるべきというのが世間の常識でしょう。もちろん内部資料ですから表沙汰になることはありません。しかし、内部資料が某かの理由で外部向け資料として使われたときに問題化するリスクを避けるためです。まさに今回のケースがそれに当たります。

 佐野氏の事務所はニューヨークにあるそうですから、空港を利用する頻度は高いはず。日本の事務所は渋谷にあるそうですから、駅前を通る機会も多いはず。つまり自分達で素材を撮影することは何の苦もなくできることです。なぜそれをしないのか?

 しかも元画像の「copyright」を画像加工で消したというネット上の検証もあります。つまり著作物の流用に問題があることを認識していたということ。本当に「内部資料」として提出し「デザイナーとしてはよくある話」ならこれはおかしい。それとも「copyright」を消して流用することが「デザイナーとしてはよくある話」なのか?

 これがデザイン界の常識だとすれば、あまりに世間から掛け離れた常識です。

デザイン界には顧客という概念がないのか?

 「一般の国民にはわかりにくい」と言いますが、本当に何も理解できません。取下げ会見の以前から理解できなことはいっぱいありました。

 リエージュ劇場のロゴデザイナーから訴えられた件では、当初はリエージュ劇場のロゴが世界商標に登録されていないことか問題ないことを説明していました。しかし、提訴されると商標登録せずとも著作権は発生するといわれ、商標と著作権のどちらが優先されるかが争点になると報道されました。いったい、何を持って「問題ない」と説明したのか理解できません。

 8月5日の記者会見でエンブレム問題を佐野氏が説明した際にも、製作過程を丹念に説明し「今までになかったアイデンティティ」「デザインに対する考え方がまったく違う」と類似性がないことを訴えました。しかし、「アイデンティティ」や「考え方」が異なれば類似性がないことの証左になるのでしょうか。逆に言えば、「アイデンティティ」や「考え方」が異なればどこまで似ていても「別物」として扱われるのでしょうか。

 この問題は最初から、佐野氏の弁明と世間の認識がずれていたように思います。商標が取れれば法的に問題ないかも知れないが「後出しだけど商標は先に申請したから」というデザインで本当にいいのか?結果として完成されたデザインが類似しているかが問題ではないのか?と。

 この根底にあるのはデザイナーが顧客を意識していないからではないでしょうかデザイナーにとっての顧客とは依頼人です。今回でいえば五輪組織委員会。さらに向こうには一般国民です。しかし、デザイナーは選考委員としか向き合っていないように見えます。アイデンティティやコンセプトを必死に語られても、出てきたデザインが「似てるね」って言われればそれは受け入れられない。その基本が欠落しているように見えるのです。

佐野氏は「まっ黒」か?

 五輪エンブレムの取下げで一端は幕引きとなった騒動ですが、個人的には佐野氏のデザインの類似性は高いと思います。これは佐野氏自身が悪意をもってやっているのではなく、素人目線の「OKライン」よりも遥かにNG側を「OKライン」としていると思われます。リエージュ劇場のロゴデザイナーやアメリカのデザイナーが提訴したとなると、一概に「素人目線」とは言えないですが。

 決定的なのはオリンピック展開例の写真流用問題です。著作物の流用が問題であることを認識しており「copyright」を消しており、それを平然と「よくある話」として誤魔化すところは看過できません。これも恐らくは、自分達の基準では問題ない行為なのでしょう。「copyright」を消して流用することが本当に「よくある話」なのかデザイナーの方々に聞いてみたいです。

 ただ、良い点もありました。五輪エンブレムに採用されるほどの一流のデザイナーが「アイデンティティ」や「考え方」が異なれば別デザインと言ってくれたこと。顧客に提示する資料は「内部資料」で「copyright」を消せば流用してもいいこと。そもそも、「ほかの人が類似のデザインを使用しても問題ない」とも言っていました。この言葉に勇気をもらった方々も多かったのが、今回の良かった点だと思いました。

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